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福岡地方裁判所 平成6年(ワ)3885号 判決

原告

日本出版販売株式会社

右代表者代表取締役

五十嵐一弘

右訴訟代理人弁護士

鎌田俊正

被告

株式会社福岡銀行

右代表者代表取締役

佃亮二

右訴訟代理人弁護士

佐藤安哉

有吉二郎

被告補助参加人

株式会社長崎銀行

右代表者代表取締役

堀敏明

右訴訟代理人弁護士

森竹彦

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は原告に対し、二六〇〇万〇五六二円及び内二二九四万三〇〇〇円に対する平成六年一〇月六日から、内三〇五万七五六二円に対する平成七年二月九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、小切手を銀行に取立委任した者が、右銀行の取立委任契約の債務不履行を理由に、右銀行に対し、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実

1  原告は、書籍、雑誌、一般出版物、教科書、教材品、視聴覚機器、事務用機器及び文房具その他関連商品の取次販売を業とする株式会社である。(争いがない)

2  有限会社松永ブック(以下「松永ブック」という。)は、原告に対する取引代金の債務の支払方法として、左記の一般線引小切手(以下、それぞれ「本件小切手(一)、(二)、(三)」といい、あわせて「本件各小切手」という。)を振り出し、原告に交付した。(小切手振出の原因事実については、証人松永紀夫、その余の事実は争いがない)

(一) 金額 一一四三万円

支払人 被告補助参加人八代支店

振出地 熊本県八代市

振出日 平成六年三月三一日

支払地 熊本県八代市

(二) 金額 一一五一万三〇〇〇円

振出日 平成六年四月三〇日

支払人、振出地及び支払地は(一)に同じ

(三) 金額 九六四万円

振出日 平成六年五月三一日

支払人、振出地及び支払地は(一)に同じ

3  原告は、次のとおり、被告渡辺通支店に対し、本件各小切手の取立てを委任した。(争いがない)

(一) 本件小切手(一)

平成六年四月一日

(二) 本件小切手(二)

平成六年五月二日

(三) 本件小切手(三)

平成六年六月一日

4  被告は、次のとおり、本件小切手の支払人である被告補助参加人八代支店に対し、簡易書留郵便により郵送の方法(いわゆる個別取立方式)で支払呈示した。(争いがない)

(一) 本件小切手(一)

平成六年四月二日被告渡辺通支店発送

同月五日被告補助参加人八代支店到着(支払呈示)

(二) 本件小切手(二)

平成六年五月六日被告渡辺通支店発送

同月九日被告補助参加人八代支店到着(支払呈示)

(三) 本件小切手(三)

平成六年六月二日被告渡辺通支店発送

同月三日被告補助参加人八代支店到着(支払呈示)

5  被告は、平成六年六月一〇日、原告に対し、本件各小切手が不渡りになった旨を通知した。(争いがない)

二  争点に関する当事者の主張の要旨

1  被告の責任について

(一) 原告

被告は、原告との間の本件各小切手についての取立委任契約に基づき、善良な管理者としての注意義務(民法六四四条)及び委任終了の後は遅滞なくその顛末を報告する義務(民法六四五条)をそれぞれ負担している。

そして、その注意義務の内容として、被告は、受託銀行である被告補助参加人八代支店からの連絡の有無にかかわらず、小切手金の入金の有無を常時管理し、入金のない場合は、被告補助参加人八代支店に自ら照会するなどしてすみやかに委任者たる原告に不渡りの有無の通知すべき義務があるところ(右のような事務処理はコンピューターを用いれば容易に出来、現に、このような管理をしている銀行が多数存在する。また、仮にコンピューター化していないとしても、そのことゆえに注意義務が軽減されることはない。)、本件小切手(一)については。被告補助参加人八代支店に到着(支払呈示)した日の翌日である平成六年四月六日、本件小切手(二)についても、同様に平成六年五月一〇日には、それぞれ不渡通知が可能であったにもかかわらず、平成六年六月一〇日まで右通知をしなかったものであるから、債務不履行責任を免れない。

本件各小切手は、一般線引小切手であり、原告としては、被告のような取引銀行に取立てを委任するしか方法がなく、小切手が遅滞なく支払われたかどうかを原告が直接被告補助参加人八代支店に確認することはできないし、また被告補助参加人八代支店が原告に対し直接不渡りとなった旨を通知する義務もなく、小切手が不渡りになったかどうかは被告を通じてしか知る方法がないのであるから、被告の右通知義務はより加重されるというべきである。

(二) 被告

そもそも、後記2の被告及び被告補助参加人の主張に記載のとおり、原告は、松永ブックとの間で、支払猶予の合意をしていたか、少なくとも決済遅延を了知したうえ容認していたのであるから、被告に原告主張のようなすみやかな不渡通知義務が生じる余地はない。

仮に、右のよな合意等が認められないとしても、本件各小切手の取立委任は、手形交換所における呈示を求める特別の申出はなく、日常業務の中での通常の事務処理を前提とする取立委任であるところ、被告は通常一般の取扱いとして、支払地たる熊本県八代市に被告の支店が存在しないことから、内国為替取扱規則に従い、支払人たる被告補助参加人八代支店に直接郵送して支払呈示をし、被告補助参加人八代支店から不渡通知があった平成六年六月一〇日に即日原告にその旨通知し、さらに同月一四日本件各小切手の送付を受けるや、即日原告に交付返却したものであって、被告にはなんら債務不履行はない。

本件のような事態は、被告補助参加人八代支店が内国為替取扱規則に反し、委託銀行である被告の承諾がないまま事実上の留置措置を採ったため生じたものであるが、被告としては、支払人たる銀行が内国為替取扱規則に従った処理を行うものとの銀行間の信頼関係に基づいて事務処理を行えば足りるものであり、右規則に反した取扱いがされることを予想して小切手金の入金の有無を常時管理すべき義務(このような義務があるとすると、小切手の発送日から入金日までの期間は郵便事情によっても異なってまちまちであるうえ、機械による管理になじまないことから手作業によらざるをえないから、取立委任を受けた銀行に過大な事務負担を強いることになる。)まで存しないものというべきである。

2  原告の損害(被告の責任と原告の損害の因果関係を含む。)について

(一) 原告

原告は、被告から本件小切手(一)について、平成六年四月六日に不渡通知を受けていれば、翌七日には松永ブックに対し送品停止措置を採ることができたのに、被告が右通知を怠ったために、平成六年四月七日から同年六月一一日まで松永ブックに対し、代金合計三〇五九万四六二四円(但し、立替保険料八万九四八〇円を含む。)相当の商品を送品し、右金額から返品分四五〇万四五八二円、立替保険料八万九四八〇円を控除した二六〇〇万〇五六二円の損害を被った。

なお、原告は、松永ブック及びその連帯保証人である松永紀夫、松永香代子に対し、右同額の商品代金債権を有しているが、松永ブックらはいずれも無資力で回収不能である。また、原告が松永ブックに対し、手形小切手の決済に関し、手形交換所を経由しない個別取立の方法によるとの合意をしたことも、支払猶予の合意をしたこともなく、これまでも松永ブック振出の小切手の決済が遅れているとしても、それは結果論であって、原告が関知するものではない。

(二) 被告及び被告補助参加人

これまでの原告依頼にかかる松永ブック振出の小切手取立状況については別紙のとおりであり、これによると、原告が松永ブックとの間で、支払猶予の合意をしていたか、少なくとも決済遅延を了知したうえ容認していたことは明らかである。

また、商人が常時各種の情報を収集して入金管理すべきは当然であるところ、原告が仮に松永ブック振出の小切手の決済遅延を容認していなかったとしても、松永ブックから交付される同社の決算書等を通じて同社の経営状態を把握することができるうえ、被告から交付される当座預金勘定照合表等により容易に小切手金の入金の有無を把握できるにもかかわらず、これを怠り、商品の出荷を継続したものである。

従って、いずれにしても、原告の商品出荷による損害と被告の不渡通知の遅延との間には相当因果関係がない。

第三  当裁判所の判断

一  被告の責任について

1  前記認定事実及び証拠(甲一ないし三、四の一ないし二八、九の一ないし五、一〇・一一の各一・二、一二、乙二・三の各一ないし三、四の一ないし四、五の一ないし三、六の一・二、七、八、九の一ないし一八、一〇の一ないし二〇、一一の一ないし一五、一二の一・二、一四、一五の一ないし六、一六ないし二〇、二一の一ないし四、丙一ないし四、証人田畑英昭、同末藤克明、同大坪加奈代、同鮫島英郎、同松永紀夫、同森勝哉、調査嘱託の結果[原被告各申請]、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 松永ブックは、従業員六、七名で、熊本県八代市を本店とする小規模の書籍の卸業を営む会社であるが、昭和五五年頃から、原告と書籍等の仕入れの取引を開始するようになり、その代金決済の方法としては、毎月一度本件各小切手と同様の被告補助参加人八代支店を支払場所とする松永ブック振出の銀行渡りの一般線引小切手により行われていた。なお、松永ブックが原告と取引を開始するようになって以降は、原告との取引額が全体の九〇パーセント以上を占めていた。また、松永ブックのいわゆるメインバンクは、被告補助参加人であり、平成六年一〇月頃において、同銀行から約三五〇〇万円の借入れをしていた。

(二) 原告は取引先から受領した小切手の取立方法としては、手形交換所が存在する場所を支払場所とする小切手と手形交換所が存在しない場所を支払場所とする小切手に仕分けしたうえ、主として被告渡辺通支店に取立委任しており、前者の小切手については、手形交換所を通じた取立てを依頼するのに対し、後者の小切手については、被告から支払銀行に小切手を郵送して取り立てるいわゆる個別取立ての方法で取立委任していた。なお、熊本県八代市には、手形交換所が存在するが、原告は、存在しない前提で被告に取立委任しており、また被告としても、熊本県八代市所在の手形交換所には加盟していないため、顧客から特別の依頼がない限り、同所を支払場所とする小切手については、支払銀行に直接郵送する個別取立ての方法により取り立てをする取扱いをしていた。

(三) 隔地間の小切手決済については、代金取立制度の問題であるが、各銀行においては、普通取引約款である代金取立規定によるほか、銀行間では、すべての銀行が加盟している全国銀行協会連合会を通じて通知された内国為替取扱規則に従った事務処理がされている。

右規則によれば、不渡りの場合の事務処理方法は、手形交換所を経由した支払呈示の場合は、手形交換所の規則による処分がされるのに対し、個別取立てによる支払呈示の場合は、呈示を受けた受託銀行は、即日委託銀行に不渡通知をする扱いになっているほか、振出人から期日に支払不能のため、手形留置の申出があった場合には、不渡通知を発信すると共に、委託銀行の承諾を得た場合に限り留置取立てを行うことになっている。

また、小切手が決済されて入金される場合は、オンラインで結ばれているコンピューターにより、受託銀行からの入金電文が通知され、自動的に委託銀行にある取立依頼をした顧客の口座に入金されるシステムになっている。個別の入金の有無についての管理については、内国為替取扱規則その他すべての銀行に共通の事務処理に関する文書において、明文の規定はなく、各銀行が個別の方針によって対応している。そして、現在のところ、取立依頼をした顧客からの照会の有無にかかわらず、支払が遅滞している手形・小切手の管理を行っている銀行もあれば、顧客からの照会がない以上管理を行っていない銀行もあり、また行っている銀行においても、銀行の義務として位置付けているところもあれば、顧客に対するサービスにすぎないと位置付けている銀行も存在する。被告においては、小切手の入金の有無を個別に管理する態勢が採られておらず、取立委任をした顧客からの照会がない以上、受託銀行に支払遅滞の有無・理由等について照会確認をすることはないが、原告のように当座預金の異動の多い顧客に対しては、毎日の当座預金の入出金を記載した当座勘定照会表を交付している。

(四) 原告が、被告補助参加人に支払呈示した松永ブック振出の小切手の従前からの決済状況は別紙のとおりである。なお、このうち、平成二年一月三一日、同年二月二八日、同年三月三一日及び同年四月三〇日を各振出日とする小切手については、南日本銀行渡辺通支店に取立委任がされ、西日本銀行八代支店を通じて手形交換所に支払呈示されているが、そのような処理がされた理由は不明である(南日本銀行渡辺通支店は、平成五年七月三一日に閉鎖された。)。

このように、本件各小切手の支払呈示のかなり以前から、支払呈示の日(到着日)と実際の決済日との間に相当の間隔が空いており、しかもこのような決済をするに際して、被告補助参加人から被告に対し不渡通知や連絡はされていなかった(従って、被告から原告に対しても同様になんらの連絡もされていなかった。)が、これまで決済までの間に、原告から被告に対し、右のような小切手決済に関して何らの問合せも異議の申出もなかった。

(五) 本件各小切手については、前記争いのない事実に記載のとおり、平成六年四月五日、同年五月九日、同年六月三日にそれぞれ被告補助参加人八代支店に支払呈示されたが、支払呈示の各当日には松永ブックの当座預金口座には、右各小切手を決済するに足りる預金が存在しなかった。しかしながら、被告補助参加人は、松永ブックから、「国民金融公庫から融資を受けられる予定であるので、同年五月末まで決済を待って欲しい」旨の申出を受け、右を容れて被告に対し不渡通知や連絡をすることなく、同月末まで不渡処理を待っていたが、同月末になっても入金されず、同年六月九日に松永ブックから、「決済不可能であるので不渡りにしてほしい」旨の連絡を受けて、翌一〇日本件各小切手を資金不足を理由とする不渡りの処理をし、被告渡辺通支店にその旨通知した。なお、松永ブックは、被告補助参加人に対し、原告から支払猶予の了承を得ている旨述べたが、被告補助参加人が直接原告にその旨確認したわけではない。また、本件各小切手には、現実の支払呈示の日と異なり、平成六年六月一〇日に支払呈示を受けた旨の記載のある支払拒絶宣言が付されている。

なお、原告は、松永ブック及びその連帯保証人である松永紀夫、松永香代子に対し、前記本件各小切手債権のほか、商品代金債権を有しているが、松永ブックは事実上倒産していて無資力であるし、松永紀夫、松永香代子も自己破産の申立てをしている。

2  被告及び被告補助参加人は、原告と松永ブックとの間で、支払猶予の合意をしていた旨主張し、本件各小切手以前においても、松永ブック振出の小切手が支払呈示の日から相当期間経過した後に決済されていたことは前記認定のとおりである。しかしながら、「原告から直接支払猶予の了解をもらっていたわけではない」旨の証人松永紀夫の証言や「原告は大量の小切手等を取り扱っており、小切手の場合は、銀行に取立委任する時点で入金扱いしているため、銀行から不渡通知を受けるまでは入金されたものと信じており、これまで松永ブック振出の小切手の決済が遅延していることには気付かなかった」とする証人田畑英昭の証言に照らせば、従前の松永ブック振出の小切手の決済状況のみによって、原告と松永ブックとの間に支払猶予の合意があったとか、事実上支払遅延を容認していたとは認めることができず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

また、証人森勝哉は、松永ブック振出の小切手に関しては、平成六年四月下旬に一度だけ、被告の担当者から、同年二月二八日及び同年三月三一日(本件小切手(一))振出の小切手の決済遅延の理由の照会があった旨証言する。しかしながら、右証言は、照会の内容については、詳細に記憶しているにもかかわらず、その照会の相手方の氏名は失念したとしていて不自然であるうえ、前記認定のとおり、被告においては、小切手の入金の有無について個別に管理する態勢が採られておらず、これまでも松永ブック振出の小切手については、かなり以前から決済が遅延しているにもかかわらず、被告渡辺通支店から被告補助参加人八代支店に決済遅延の理由の照会が一切されていないのに、今回に限り、しかも一度だけ照会があるということ自体不可解であり、右証人森の証言は、右照会の事実を否定する証人鮫島英郎の証言に照らし、信用できないものというべきであり、他に組織体としての被告が被告補助参加人から通知を受けるまでの間に本件各小切手の決済遅延を把握していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

3  右1及び2を前提に被告の責任の有無について検討する。

まず、被告は、原告と松永ブック間の支払猶予の合意等の存在を前提に免責される旨の主張をするが、前記のとおり、原告と松永ブック間には、支払猶予の合意等の存在が認められない以上、右を前提とする被告の免責の主張は失当である。

被告は、原告との間の本件各小切手に関する取立委任契約に基づき、善良な管理者としての注意義務を負担していることはいうまでもない。しかしながら、他面では、銀行は大量の手形・小切手の決済を行わなければならず、そのために個々の手形・小切手の取立てについても可能な限り、簡易迅速に処理しなければならないという要請も存在し、この点については、銀行取引約定書、当座勘定規定及び手形交換所規則等の金融機関の自治法規によってその多くの部分が処理されているところである。この点は、隔地間の手形・小切手決済制度である代金取立制度についても同様であり、前記のとおり、代金取立規定、内国為替取扱規則その他の自治法規によって規律されている。そして、代金取立てにおける委託銀行と受託銀行の関係は、代理人と復代理人(民法一〇四条)の関係及び両行間で締結された為替取引契約(内国為替取扱規則等)の定めるところにより事務処理を行うべき関係が存在し、これについては、取立委任をする顧客も、受託銀行を復代理人として選任することについて黙示的に許諾しているものと解される。

もとより、取立てに出した小切手等が不渡りになった場合には、遡求権が保全されていても、取立委任者たる所持人は、原因関係上の債権の回収・保全措置をとることが必要となるし、かつ当座預金口座の決済資金の手当も必要となるのであるから、取立てに出した小切手等が不渡りになった場合は、直ちに取立銀行からその旨の通知を受けることが必要であり、このような通知義務は前記の善管注意義務に含まれると解されるが、右通知義務もあくまで前記の代金取立制度を前提としたものであるというべきであるから、顧客から小切手等の取立委任を受けた銀行としては、内国為替取扱規則その他銀行の事務処理手続上確立している方式に従って定型的、画一的に不渡通知等の事務処理をすれば注意義務を果たしたものというべきであって、他に特段の事情のない限り、それ以上の義務を負わないものと解するのが相当である(右の義務は、取立の対象が一般線引小切手であることだけを理由に特に加重されるものとは解されない。)。

従って、銀行業界において、いまだ決済遅延の手形・小切手についての管理システムが確立しているとはいえない現状を前提とする限り、本件のような個別取立ての際、留置取立てがされる場合は、内国為替取扱規則に従い、受託銀行からその旨の承諾が求められるものと信じ、顧客からの問合せがない以上、自ら個別に小切手の入金の有無を管理し、受託銀行に決済遅延の理由等を問い合わせたり、その結果を顧客に連絡したりしなかったとしても、直ちに善良な管理者としての注意義務違反として、債務不履行責任を問われることはないものというべきである。

そうすると、内国為替取扱規則に違反し、委託銀行である被告や顧客である原告になんらの連絡をすることなく、振出人たる松永ブックの利益を図るため事実上の小切手の留置取立てをしていた被告補助参加人が原告から不法行為責任等を問われる余地があるとしても、前記のとおり右のような被告補助参加人の事務処理を知らず、同行から本件各小切手の不渡通知を受けるや、直ちにその旨原告に連絡した被告にはなんらの責任はないものといわなければならない。

二  結論

以上、認定説示したとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官神山隆一)

別紙有限会社松永ブックに関する小切手取立ての詳細〈省略〉

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